年末からイノベーションに関する本をいろいろ読んでいたのだけどその流れでたどり着いた。これは名著でしょう。年明け早々いい本にあえてラッキーだ。
創薬ではある種の論理に基づいて、化合物の探索、合成を行う事になるわけだが、それはいわゆる定量的構造活性相関解析(QSAR)、定量的物性構造相関解析(QSPR)さらには動態特性(QSPkR)というような構造(やその特性)と変換したいパラメータの関連性からある程度論理的に探索対象を決定していくのが主流だ。ただし、このようなやり方では、ある意味推測が容易な答えしか出さないことが多いし、正しい答えの出るであろう予測の範囲もごく限られてしまうことが多い。予測範囲以外のものをアウトライヤーと呼び、予測の範囲外としてしまうが、実際にはそういう化合物の答えが知りたかったりするので常に苦労する。
我々は帰納的な推論から出発して、その枠を限りなく広げていきたいのだが、それはなかなか難しいし、実際問題として帰納の枠のなかでは無理ではないかと考えている。局所的な予測モデルを束ねてより大きい問題に対応すればよいのではないかという考え方もあるのだけど、それは結局、問題を小さくしておいてわかることの中だけで理解するということなのであまり上手くいかない。さらに、新規性の高い化合物にジャンプする(いわゆるホッピング)というものはQSARのような帰納的な推論方法からでは成し遂げることは非常に難しい。(ファーマコフォア探索は前提条件決め打ちだからなぁ、、)
いろいろ考えるに、結局創薬においては、それぞれのプロジェクトで(尤もらしい)仮説を構築できる力というものが一番重要なのだろうと考えているのだけど、本書はそういった仮説構築の論理というものに対して、帰納や演繹との対比をしながら明確に述べているので、QSARの論理的な限界はどこら辺なのかとか、より良い仮説を出すためにはどういう思考サイクルをまわせばいいかとかのヒントが満載だ。
さて、本書では科学的方法には帰納法の他に仮説の提案が必要であり、仮説の提案なしには帰納法を正しく用いることは出来ないと述べていて、その通りだと思う。しかし一方で、仮説は検討中の問題の現象についてもっともらしい、もっとも理にかなった説明を与えるものでなくてはならないとあるように、確度の高い仮説を構築するためには、高い分析能力や論理力、数多くの解析方法やマイニング方法への知識があってはじめて仮説提案力が高まるのだろうなと思うのだ。
- 探求の論理学は思惟の動力学、論証の論理学は思惟の静力学
- 分析的推論は前提の中にすでに含まれていること以上のことを結論をして導きだすことはできない
- 現実の人間の思考においては、諸概念の意味は類比やモデルやメタファーなどによって絶えず修正され拡張されている
- アブダクションとは説明仮説を形成する方法
- 演繹、帰納、アブダクション
- 発見のタイプ
- ということの発見
- なぜかの発見
- 科学的仮説や理論は、観察された事実から導かれるのではなく、観察された事実を説明するために発明されるものである
- アブダクションは遡及推論
- 未知について推論するという目的にとって演繹は役に立たない
- 仮説は検討中の問題の現象についてもっともらしい、もっとも理にかなった説明を与えるものでなくてはならない
- 創造的想像力による推測の飛躍
- アブダクションは理論を求める、帰納は事実を追及する
- 単純帰納と質的帰納
- 科学的方法には帰納法の他に仮説の提案が必要であり、仮説の提案なしには帰納法を正しく用いることは出来ない